折原美樹WS

折原美樹ワークショップ ’07
グラハム・メソッド:テクニックとレパートリー

マーサ・グラハム舞踊団のプリンシパルダンサーの折原美樹さんのWSが行われた。批評活動を始める前には実は私もこのWSに出て「ナイト・ジャーニー」といったグラハムのレパートリーを体験したことがあるが、実に貴重だった記憶がある。批評活動を始めて時間がたつので、ほぼ5-6年ぶりのWSを見学した。
今回は1927年の”Heritic”という作品と1947年の”Steps in the Street”という作品を上演した。共にグラハム舞踊団に女性舞踊手しかいない時代の作品だ。後者はRiggerという作曲家が音楽をつけたが、原曲が失われたように見えたため、1988年にユリコとグラハム本人が同じ作曲家の他の曲で再構成して上演した。(そうしたらオリジナル曲が後日出てきたという。)同じ曲(原曲の方)を用いたダンス作品がドリス・ハンフリーにもあるようで、「New Dance」というタイトルとのこと。歴史的経緯としてテッド・ショーンとルース・セント・デニスによるデニス=ショーン舞踊団にはグラハムとハンフリーが在籍したのだが、グラハムはコントラクションのような内面的なテクニックを志向したのに対して、ハンフリーはフォール・リリースに代表される外面的なテクニックを志向したととの折原による解説もあった。(後にハンフリーの系譜はリモンに受け継がれ、ハンフリー=リモン・テクニックになるそうだ。)
”Heritic”はタイトル通り、『異端児』を表現した作品だ。半円形のコロス(WS受講者たち)が主人公(折原)を取り囲む。音楽がなると、コロスは散りそれぞれに表現をして、また音楽がなると、半円形にあつまる。一方、ヒロインは、コロスに対して自我を表現したり、コロスに惹かれたりという演技をする。実にシンプルな構造と展開だが芸術性の高い作品だ。作家がテクニックを確立していく過程と参照してみても興味深い作品である。
”Steps in Street”は舞台全体に2つの群舞のパート(WS受講者たち)があり、その間にソリスト(折原)がいるという作品だ。この作品も極めて面白い作品で、群舞対ソリストや、ラインをつくる踊り手と折原といった明確な構造があるのだが、そのパターンがパターン化していないのだ。戦後日本の現代舞踊だとドイツ帰りの邦正美、江口隆哉などヴィグマンに師事をした作家たち(この他には執行や児童舞踊の印牧らがメジャーだが)ラバン=ヴィグマンによる群舞の影響が色濃く出てくる。グラハムの作品の場合、何かを型として模倣しているという印象ではなく、いわゆる群舞のようなタッチのようにみせながら、複数の踊り手たちがばらばらにばらけるといった感じで、独特の思考に沿っているということを見て取ることが出来る。グラハムと同時代にNYCで活動しかつ友人だった伊藤道郎の戦前の作品と比較しながら見たが戦前から戦後にかけてのモダンダンスの作品は面白い。ポストモダンダンスに注目が集まる昨今だが、本当に『アメリカン・モダン・ダンス』なのだが戦前からこの頃にかけての舞踊作品に接することが出来た一夜だった。

(森下スタジオ)