2006年 11月12月の現代舞踊から 

 現代舞踊の踊り手の中には興味深い若手や中堅作家も多い。コンテンポラリー・ダンスに何かと視野が行きがちかもしれないが彼らの舞台を見ることも現代のシーンを捉える上で重要だ。様々な優れた実演家たちがそこにいるからである。
11月には石川陽子によるYoko Ishikawa Dance Recital vol.Ⅱが開かれた。作品「雨・WATER・namida・・・」はお互いに織り込まれたイメージとイメージともいうべき作品だった。舞台にパラソルがぽつりとおかれている。1人1人と舞台に踊り子が現れる。成熟を見せた佐藤一哉はいつになく凛々しい大人の男を見せる。やがて雨の中の情景へ桐亜果琳、石川も登場する。桑島二美子の鍛えられた肉体はこの作品では静謐に見えた。桑島は躍動する踊りが見事な踊り手だが、この新たな横顔は振付家が見いだしたものといえるだろう。作家は叙情的なシーンが多いのも特色といえるかもしれない。佐藤の作風を発展させることで内面を描写しようとしたり演劇的な作風を模索したりするのではなく洞察力を活かして美しい情景を描き出そうとする側面がある。石川と桑島が踊るシーンではシンメトリーなど基本的な構成の構造も見えた。しかしその中にはお互いに身を開くように横たわるなど、ときどきユニークな造形も登場する。佐々木由美が溌剌とした踊りの表情で見せた後、一点倒立などユーモラスなポーズを織り交ぜる横洲と佐々木のセンチメンタルなアダージョがはじまる。ひとでのような傘の中から石川が現れ、ラストは手で掲げられた傘の下に皆で集っていく。作品で用いられているユニゾンの構成や舞台美術はさらに練り上げる必要があるが作家は優れた舞踊作家になる可能性を秘めている。本田重春や佐藤のスタイルの延長線上に石川自身の様式のさらなる確立が求められているのではないか。
ストーリーやコンセプトなどをさらに詰める必要はあるだろう。
12月は舞踊作家協会の公演「Doll」は杉原ともじが芸術監督となった。ベテランの踊り手である島田美穂はさすがの演技力だ。「Innocent Rose」では薔薇の花束をもった人形が舞台中央に照らし出されている。闇の中からチュチュを着た島田が現れる。手元から花が落ちると、島田は舞台いっぱいに踊る。その切れ味のあるムーブメントと質感は現代舞踊の中でも水準が高いものといえるだろう。子どもらしい表情はこの作家の特有のものだ。島田明美は定評のあるモダンダンサーである。明美作品「tre profumi」では作家の新しい感覚の展開を感じさせた。自分自身を人形に喩えながら明美と宮川かざみと若林はるみの3人の舞姫たちが溌剌と踊った。最も印象的だった作品は山中ひさのによる「半神」である。萩尾望都の同タイトルの名作にインスパイアされたような作品だ。山中の上にH.R.カオスなどでも活躍する野村真弓が覆いかぶさって登場する。鼓動の音の中で山中が蠢きはじめる。野村は舞踏の様に動き出す。野村が迷える少女のように動くと山中は神がかったように立つ。山中は山岸涼子のような濃密な光と影のイメージをもった芸術家だ。そのトーンをシャープに形にした作品といえよう。中でも注目を集めた作品は中村友紀「休息の夢想」だ。中村は内田香と共に「金井芙三枝舞踊団10年に1人のダンサー」と並び称された踊り手である。ブランクをはさんで久々の作品となった。舞台には水槽が並べられ、背後にキャンバスが置かれている。海辺での休息を夢見ながら女は言葉をつぶやく。やがて女はバービードールをいっぱいに積み上げていく。積み上げられた人形たちの中で座り込む女の姿は異様だ。青い絵具をキャンバスに広げると最後はボディペイントを繰り広げる。ウィットがある作品だが作品全体の美術をさらに練り直すことも必要かもしれない。それ以外では川井美奈子「shine」と天野美和子「It’s a small world」が印象に残った。共にさらなる表現力が課題だが、川井は光の中で自分を模索する少女を、天野は演劇的な作風で女の日常生活を描いた。公演のテーマとなった「Doll」とは杉原の周りに集う踊り手たちが最も得意とするパターンの1つだがその現代的解釈が繰り広げられた。
 現代舞踊ではそれぞれの作家が自身の表現を探求する傾向があることから、多様な表現を見ることが出来る。決してパターン化された表現といえない表現も多く精緻に見つめていくことが大切だ。
(11月4日 横浜にぎわい座のげシャーレ 12月1日 ティアラこうとう 小ホール)