Fields and Frontiers

この間、ある友人の婚約者(ある伝統ある領域の研究者)を紹介されて、強く思ったのだが、如何にフロンティアで教育を受けたかということを感じるこの頃である。
そもそも先端領域を切り開くことが前提にあった場にいたし、何か研究をやるという事は新設領域を攻めるというのが、基本的なスタンスだった。

研究者に高度に様式化した世界でいい仕事をするタイプと、本当に現場で新しいジャンルを拓くことに使命をかけるタイプの2パターンがあるとする。実際に習った人も、自分がこれまで散々やってきて身にしみてノウハウを持っているのも後者である。現場よりで新しいフィールドとその基盤、そしてその産業界や経済状況を見据えながらフィールドのガバナンスを提案していくことが私の日常なのだが、ある程度様式化したフィールドとコミニュティだとまたノウハウが違うのだ。舞踊研究はどこから世代をとるかということもあるがフロンティアである。舞踊批評も永田龍雄の時代よりは拓けてきたフィールドかもしれないがこの国ではフロンティアである。

ダンサーと話をしていて、極度に実演家よりでなく、研究者、ないしは研究教育者としての顔を持っているタイプの実演家の中にはミッシェル・セールの「ヘルメス シリーズ」を感じる時がある。やはり高度な領域であると思う。もちろんトップクラスの実演家の持っている体験知はいうまでもなくエレガントだ。

もう2010年代以後を担う次世代の実演家の為の評価軸と舞踊論を打ち出していくことが必要な時期である。この考え方は決して特殊な考え方ではないが、90年代に出てきた舞踊論やテクニックを学んで成長をした作家を仮に<Type1>とするのであれば、その次世代に当たる<Type2>や<Type3>を育てていくことが重要なのである。

InterCommunication Center 「コネクティング・ワールド―創造的コミニュケーションに向けて―」

ICCの企画の中では久々に手ごたえがある展示だった。電子ネットワーク環境をビジュアライズしたような作品が多い。「MASS Dev.」では電子商取引の情報が部屋いっぱいにインスタレーションのように投影されている。Googleの株式取引データを素材にしており商取引に沿って部屋が点滅する。「Goo検索キーワードストリーミングICC版」はリアルタイムで検索をされるGooの検索語がディスプレイの上を流れている。日本のメディアアートユニット、エキソニモの「<ObjectB>」はネットゲームを利用したVR+オブジェ作品。様々な機械を組み合わせただけのいい加減なロボットが操作をするアバターと人間がネットゲームでガンシューティングできる。英国人らしいウィットが光ったのがウェイン・クレメンツの「<un_wiki>」だ。Wikipediaで削除されたパーツがネット越しにディスプレイの上に投射されていく。断片のフレーズ郡なのだが、こういう感覚はネットアートならではのものだ。こういった作品はダンサーやパフォーマーにとってもヒントになるだろう。
ギャヴィン・ベーリー+トム・コービー「<>」には唸った。ネットニュースやWebでやりとりされるテクストデータが気象データのように位相を伴ってディスプレイされているのだ。データはおそらくネットからとってきているのだろう。揺れ動く言説を描写した優れた作品だ。
比較的若い作家が多いのかと思ったらメディアアートの大御所の作品も発見。ムンターダス「オン・トランスレーションシリーズ1996-」ではロシア時代のCNNの記者のインタビューが流れていた。政治的視点があるこの作家ならではの作品である。
マーク・ポスターの「情報様式論」を翻訳した室井尚が2000年頃、美学会で「メディアアートはクソだ」と発言をしたことは関係者の間で話題となった。この展示では決して新しくはないのだが、関係者でも久々に面白いと思った作品が幾つもある企画である。おそらく日常的な電子メディア環境を素材にした作品が多いためリアリティが生まれたのではないか。メディアアーティストにとっては難しい時代である。誰しもが一定の情報環境を持っており、一般に解りにくい技術を提示してもそれほど面白さが伝わらない、それが現代ではないか。

(NTTインターコミニュケーションセンター)



常設展の展示場にある無音響室は私の好きな空間だ。無音響室に入って深呼吸をして心臓の鼓動を聞く。スチュワート・ブラントやブライアン・イーのが設立をした
Long Now Foundation http://www.longnow.org/ http://www.kanshin.com/keyword/397068 ではないが長い時間帯について考えさせられる空間である。

同じ企画の一貫として下の企画も行われていた。
ヴェクサシオン―c.i.p.@東京オペラシティ

ヴェクサシオン」はエリック・サティによる840回同じフレーズを反復するという有名な曲だ。私は実演に立ち会ったことがあり、その時はパフォーマーとして参加をしていた。( http://www.ongakukyouiku.com/music-lab/vex/vex.html )この作品ではこの曲が自動的にピアノで演奏をされるとその楽譜がプリンターから印刷をされるというものである。1フレーズは実はかなり特異な響きの音だ。しかし自動演奏だと道行く人も誰もがこの作品のことをアート作品と思っていなく、むしろ環境音楽のように自然に受け取って去っていくといのが印象的だった。自動演奏にしてしまうとこの作品の持つ良さはかえって異なる方向に行き埋もれてしまうのではないか。

東京オペラシティー2Fアトリウム)


  • その後、埼玉県はふじみ野に移動する。ふじみ野は初めて降りたのだが、東武東上線沿線の実に感じのいい郊外の街である。東上線では「成増」辺りまではダンス公演があったりする。最近では立教の先生になった勅使川原三郎のグループが朝霞でショーケースをやっていた。その少し先にこの駅がある。さらに「川越」まで行くと吉沢恵のグループが活動をしているエリアになる。

菊地尚子による705 http://www.nanamarugo.net/ の公演があるためだ。
駅からバスに乗ると北関東特有のスケール感の大きい建築物が並ぶようになる。しばらくするとバス停があり、そのすぐ前にスタジオがある。時間帯は夜なので周囲は暗い。土曜日の午後とか5月の暖かい季節に来ると心地よさそうな場所だ。
菊地の存在はコンクール等で覚えていたのでそれもあり楽しみだった。
この作品は実演で私は見ていたと思う。タイトルに記憶がある。
http://www.kk-video.co.jp/concours/tokyo2002/gen1-result.html
池田素子の振付なのだが、「夜中の薔薇」という作品も見ごたえがある作品だ。
http://www.kk-video.co.jp/concours/saitama/modern01/modern01kekka.html
今回が最初の公演だとの事。場所も東京という都市の郊外のため企画を練りながら継続をしていくと話題を集めていきそうだ。

705 Circus '06
「自分マニアLv.6−Happy Cycle」
「ポエティックな箱庭」
媒体にてレビュー
(705 Dance Lab)