橘秋子展

「生誕100年記念 日本のバレエのフロンティア・橘秋子」展

 橘秋子に関する展覧会が開かれた。牧阿佐美、関口紘一の挨拶の後、橘秋子の作品「とんぼ」(昭和21年)が再演された。
背中に四枚の羽をつけトーシューズをつけたバレリーナ(伊藤友季子:http://www.ambt.jp/dancer.html)が現れる。両手を羽に見立てて六葉の蜻蛉となる。郷愁を感じさせる楽曲(洋楽)が響く中、旋律の音と共に踊り手は空間に身を走らせる。肢体はジュッテと共に軽く宙を飛んだかと思えば、ポワントでたちながら軽く回転をしながら前に進み韻律を刻み上げる。空気の流れを表すように両腕はさわやかにしややかに羽根を描く。同時代の現代舞踊の小品の名作一線を画する、バレエテクニックに基づく創作作品である。当時、すでに宮操子の「タンゴ」や石井漠・小浪の「アニトラの踊り」、伊藤道郎の「アヴェ・マリア」から始まる一連の戦前の名作、など現代舞踊でもクラシックといわれるような名曲が生まれていたわけだが、バレエスペクタクルの味わいを活かしたチャーミングな作品だ。東洋の蜻蛉というよりは、遠くヨーロッパの田園の郷愁を髣髴とさせる散文詩のような情景だ。
当時、橘や牧幹夫も愛読したであろう蘆原英了や永田龍雄の舞踊論を思わせもする。この愛らしい淡い緑色の蟲が大地に身を休めると、旋律の流れが途切れ、その瞬間に乙女は可愛らしく片目をつむる。ウィンクがもたらす驚きと切ないイントネーションが情景に響く。
 浦和眞(うらわまこと)氏と臨席をしていたのだが、浦和氏によれば、橘の作風はオリガ・サファイアの作品とは異なるという。サファイア=東勇作の系譜があるとすれば、この本作はエリアナ・パヴロバの下で学んだ若き先駆的バレリーナが現代に残した1粒の結晶ということが出来るだろう。
 続く牧のレクチャーの中では戦前から戦後にかけての橘秋子の足跡が語られた。

(ソワレ チャコット渋谷本店8階 スペース ネクスト ステージ)