Dance Venus, 上田遥

Dance Venus Presents [初めの一歩:会] Vol.3

Dance Venusの若手がまず第一歩として踊る会がこの会だ。アンデパンダンではないが、時折面白い作家と出会うことがある。私が見るのはおそらく2回目ではないだろうか。
 強く印象に残ったものについて触れたい。踊り手として成長を感じさせたのは白髭真二だ。古賀豊やRoussewaltzの公演を経ることで経験もつき次第に実力がついてきていることが解る。相部知万とのデュエット「1/3揺らぎ、そして」では息のあった演技を見せた。振付はさらに練り上げることが必要だが、踊りの表情はかなり良くなってきている。二人ともこれからの修練が大切だ。作品として面白かったのは新井千草の「メビウスの輪」だ。踊り手がモダン=コンテンポラリーのスタンダードな動きで手の輪を形作り踊るのだが、次第にマイムのように手で透明な時空の壁を描いてみたり、照明を駆使して陰を作り出すことからライブアートのような感覚を生み出す。なかなか面白い作品であり他の場所に持っていっても面白いだろう。レビューのような持ち味で魅せていたのは上篠奈美子「365、クロネコ、若いって素晴らしい」だ。猫のようないでたちの若い踊り手が大衆文化にも通じるエロティシズムとユーモラスな表現で盛り上げた。さらに東奈穂美の「蜘蛛と・・・」も心に残った作品だった。東は前にもこのBlogで紹介した踊り手である。キュートでほっそりとした出で立ち、独特の感性を持つ作家だ。東と相川千春が立ち尽くしていると、相川が動き出し、上手から下手へと走り出す。相川は何度か舞台を走り抜けた後、抽象的な動きで昆虫を描き出す。単純な作品なのだが、人を食ったような毒もある。東は的確な表現を打ち出すことができるようになれば優れた作家になるように感じる。最後は武元賀寿子とDance Venusのなじみのメンバーが「迷宮舞台〜主人の不在より〜」を踊った。ベテラン中のベテランといえる彼らにも今日踊った若手のような日々があったのだろうか。
合計19作品と小品集だが見ごたえがある舞台である。武元は若者たちとこのところ活躍を見せている。彼らには舞台経験を大きく巣立って欲しく思った。

(マチネ きゅりあん小ホール)


上田遥ダンスリサイタル10
 

 上田遥はダンスの魅力を幅広い世代に向けて発信する作家である。その作品は観客から長年愛されてきた。
「翼の見る夢」は天使役の西島千博の持ち味をから生まれたような作品だ。夢を追う人々をポエティックにコミカルに描き出す。西島はこの作品では少年のように純真だ。無垢な天使の表情は観客に童心を思い出させてくれる。神の使いの心の声(宮川安利)と共に都会の中で孤独を感じるサラリーマンや子どもの頃にスターだった少女の現在形が登場する。誰にでも入りやすいその作風には多くの市民にうったえかけるものがある。詩情に現代の寓話ともいうべき物語があるとなお良い。夢や憧憬といったテーマが持つ独特な高揚感を作品の裏地に濃密なロマンティシズムと共に織り込むことが大切だ。
 一方、「Red」は躍動する肉体の美しさや踊り手の個性に着目した作品である。芸術舞踊だけではなく、スパニッシュなど様々なスタイルと共にエンターテイメント性も探求した内容だ。白い踊り手たちが躍動する『アリュール』では清水洋子が幻想的な表情で魅惑する。続く『インスティンクト』では大人びた女の踊りを皆川まゆむと池上直子が披露する。妖精のような神秘的な横顔と官能的な大人の女の表情を兼持つ皆川と東洋的な面立ちでしなやかに踊る池上は共にスター性のある重要な若手たちだ。ベテランたちも円熟した演技で盛り立てた。鳥居かほりと佐藤洋介のデュエット『恋するタンゴ』には年配の観客から歓声がわいた。続く『愛の歌』はドレスアップをした布施麻衣子が踊る。完成度の高い演技と磨き込まれた動きの1つ1つのイントネーションは見事だ。三木雄馬は『プレパンセ』でソロダンスを披露すると、ラストは『ブエノスアイレス午前0時』となり男女数組のアダージョで締め括られた。平多利江の豊かで切れ味のある味わい、桑原文生の初々しいエロスが心に染みる。この作品は層の厚いオーディエンスを対象とした作品といいえるだろう。豪華なキャストと様々な味わい深い踊りを素材としてちりばめたような作品だ。作家の長年の活動を祝うが如く暖かい舞台だった。
この公演で特に印象的だったのは鍛えられた踊り手たちの熱い想いだ。作家のスタンダードに丁寧に仕上げるスタイルがパッションに溢れる彼らの情動を包み込む。
10年間というキャリアの節目に当たるこの公演はこの芸術家の歩いてきた軌跡を感じさせるものである。上田は精緻に計算しながら演出やキャストを作中に織り込む作家である。身体表現の新たな地平と探求することから生まれる加速感を作風に打ち出していくことがこれからの課題だろう。
さらにこのアーティストは多くのオーディエンスから愛されているといえるため、ドライでスピード感溢れる現代日本を生きる市民の心を捉える様式を模索することに意義があるといえるのではないか。さらなるステップに向けて仲間たちと新たな旅路の一歩を踏み出す日が楽しみだ。

(ソワレ 草月ホール

平多利江さんと布施麻衣子さん、そして池上直子さんと皆川まゆむさんが特に良かったです。詳しくは媒体にて