金光郁子&バレエキャラバン 第30回記念公演
    −音楽監督 土屋三郎追悼公演−
Dance Drame ロートレック

 ジャズダンスの大御所、金光郁子&バレエキャラバンの第30回記念公演。ロビーにはかつてのポスターが張り出されているが、学生時代に見たものも幾つかあり懐かしい。今回は
画家ロートレックの一生をダンス化した。昨年、他界をした故・土屋三郎がこの画家を好んだことからその追悼の意味も兼ねて再・再演した。
 会場に足を踏み入れると幕や座席、会場の空気まで念入りにコーディネートしていることがわかる。
 幕が上がると19世紀末のパリが目の前に現れる。舞台いっぱいに広がるのはキャバレーや街角など当時の世界だ。ロートレック(時田ひとし)が登場するとその傍らで絵を描いていく。彼は日本人にもポピュラーな画家だが、実際にどのような情景を前にして創作活動をしていたのかが解る。その原点はムーラン・ルージュのポスターだった。踊り子ラ・グルーニュ(杉本亜利砂)とフレンチ・カンカンを踊る踊り手達がいっぱいに広がる。金光作品は大きなセットを用いることが多いが、この作品でも劇場空間を演出するためにそれが活かされている。ロートレックは若くして成功をつかんだ。またラ・グルーニュは当時首相より有名な踊り手になった。だが、画家は次第に「緑の妖精」ことアブサンにおぼれていく。アブサンは中毒性と幻覚作用があるため、ボードレールを始め多くの芸術家が当時愛用した。しかしその結果としてフランス本国では今なお禁止されている。(日本では飲むことが出来る。)
 仕事に熱中する若き画家と彼の前を通り抜ける無数の踊り子達。この時代のパリの流行は世界の流行だった。男道化師たち(花輪洋治、坂木眞司)や子供たちもパリの広場を盛り上げる。金光本人は女道化師となり愛くるしい世界を描いた。金光は伊藤道朗のアーニーパイルにも出演しており戦後、日劇や帝劇など主にショーダンスの世界で仕事をしてきた。モチーフや世界観は明るくシンプルな群舞構成にも活躍をしてきた日々を感じ取ることが出来る。やがて画家は続く仕事に疲れ果て酒と女に溺れる様になる。
 そして船旅に出る。この船旅の情の舞台効果と演出が実に見事だ。54号室の女船客に世界中で活躍をしたエド・ローゼンスタイン夫人(松本絵利砂)と画家は出会う。ローゼンステインの為にロートレックは数枚のイラストを残している。画家はひと時の安住を見出すがやがてアルコールに蝕まれ倒れる。死の淵の画家の脳裏には絵具の色彩と夫人の姿がこだまする。満場の拍手に答えるためラストシーンでは出演者は同じレパートリーを3回も踊ることでアンコールにこたえた。センターで場面を盛り上げたヴァランタン(伊藤拓次)の活躍は印象的だった。
 現代のジャズダンス、川崎悦子のBeatnikやBDCの世界と比べてみるとまた一味違う世界である。ショーダンスの精神と朗らかさ、エンターテイナーとしての世界を忘れないことが素晴らしい。松本・杉本の世代の新しい感覚も反映されるとさらに内容が引き立つのではないかとも思える下りもあったが、土屋に捧げられた舞台は実に暖かな会だった。

(ソワレ メルパルクホール TOKYO)