今月のダンサー:06年1月 白井麻子さん

写真:大洞博靖

今月のダンサー:06年1月 白井麻子さん

今月から始まる「ダンスが見たい!新人シリーズ4」http://www.geocities.jp/azabubu/のラインアップを決める過程で衝撃を受けた幾つかの映像の1つが白井麻子さんの作品だった。その名前はあちこちで随分前から聞いていた。その頃はロンドンに留学中との事で日本で見れないという事で帰国後の新作に期待をよせていた。確かな手ごたえのある作品に胸が高まり数ヵ月後、Kappa-teの公演取材へとつながっていく・・

Abstract:
Asako Shirai is young choreographer and dancer. She is getting popular in Tokyo. For years, she had learned dance in London. She has started her activity here again.


1.「ダンスが見たい!新人シリーズ」応募のDVDを見て衝撃を受けたのですが、今度の作品からお話をおきかせください。

ダンスが見たい!でのNeighbouringという作品は2005年2月にロンドンで初演したもの。作品内容は、“隣の芝は青い”のような、隣人を気にしたり、気にされたり、そんな人間関係でした。それを出すために、創作手段として、25分間の作品の中で、出演者全員がソロ25分間踊れないものかというアイディアから作り始めました。つまりソロで踊っているのに、誰かの視線を感じるような意識が自然と生まれる。結果的には見かけはデュエットだったり、グループでもあるのですが、ダンサーにはソロのつもりで!!と何度もいったので、ダンサー一人一人が強い存在として作品の中で存在しています。今回の再演でも全員のリハも最低限度に抑えて望んでいます。作品の構成もそうですが動きの一つ一つに私とダンサーとの各自のこだわりを取り入れたので、是非、動きにも注目してみていただけたらなぁと思っております。

2.ごく一般的な内容ですが、ダンスとであったきっかけなどお教えください。


ダンスと出会ったのは、友達の勧めで入った中学校・高校のダンス部。もともと運動好きであったり、小さいころバレエをかじったこともあって、入部。体育系の部活であったので、先輩と顧問の先生に教わり、自分たちで創作というスタイルでした。初めて踊った作品も13歳の時の自作デュエットだったり(笑)、作品を作らないと踊る作品がない・・という状況でしたので、友達と朝練、昼練、放課後と明け暮れた6年間でした。


3.ロンドンでの日々はいかがでしたか?橘ちあさんなどとも交流があったようですが・・・印象的なエピソードなどあればお教えください。

ロンドンではすべてが新鮮な毎日、1年目はLABANというロンドンにあるダンスの学校に1年間通い、2年目はLABANのスタジオや図書館そして別のオープンクラスを受講したり、友達の作品に出演したり、作品を創作したりと充実しておりました。
ロンドンにいって文化の違いを感じたことは多いのですが、たとえばダンスのレッスンで、ほめて育てる、という文化がより強いとおもいました。日本だとそういう先生もいらっしゃるだろうけど、日本では注意が先、ほめるのは後、という人が多い印象があります。だから、自分ではまだまだ下手だとおもい、納得していないのに、先生にほめられたりして、戸惑うこともありました。ダンスのほめ言葉もさまざま。ok,からgood, much better、lovely, fantastic, excellent, wonderful, great, fabulous , beautiful など。でも言われるのは気持ちが良いですね(笑)。しかしその逆で自分が指導者の立場で相手のことをほめなきゃならないときに、英単語と会話の言い回し不足から、友達のダンスを「さっきよりは良くなったね」と誉めたいけど、much betterとはいうほど満足できなかったときなど、chotto(ちょっと) betterという言葉を作って友達に教え、good、chotto、muchと段階をすこしずつあげて私なりにやっていたのを思い出します。

4.帰国後の東京の印象はいかがですか?


成田につき、東京のビルディングをみたときには、やはり東京だ!!っておもいました。観覧車がいくつもあった。(ロンドンはひとつだった)。でもダンスの舞台の値段が高くて、なかなか見に行けず、レッスンの値段が高くてなかなか足を運べず。ロンドンの物価も高かったのですが、東京も予想以上でした。でも冷たいジョッキで飲むビールと枝豆、日本語でなんでも話し合える仲間は貴重な存在であることを実感しました(笑)。

5.東京とロンドンの印象の違いからKappa-teで作品を上演されていますが、Kappa-teとしての公演についても何かお話いただけると嬉しいです。

KAPPA-TEでは創作した私の11月の作品、「計り知れないこと」では、個々の時間感の違いを表現したく、いろいろな手法を使って、動きの創作に取り込みました。ロンドンでは仕事は5時まで、残業はほぼしない、日曜日には中心街以外は休み。一部のお店も、1日6時間しか営業しない(法令上できない)、(他の都市では日曜は完全休みが多々・・)、クリスマスはバスも電車も完全に運休etc。とても不便だけど、それが当然と思えば、暮らせる。ロンドンの電車も遅れやキャンセルはたびたび。ロンドン住人はほぼ怒らない、すぐに許す。(あきらめる)。日常茶飯事のことだから。なんてのんびりな国だろう、と感じました。
そんななかで昨年日本での列車の事故をきいたときに、悲しみと同時に、日本人はどうして一刻をいそぐのだろうと感じ、そんな思いから、この作品を作り始めたのです。なにか時間に縛られているような私たちであり、時計という制度を作ったのには、私達なのに、その時計に縛られている・・。そんな思いでした。
でも東京にもどり4ヶ月。一つ気づいたことは、みな他の人のために、一刻をいそぎ、お店を24時間にして、すべての人に対する思いやりから・・。視点を変えれば、見え方もまったく違うんだと。
そして日本人の持つおせっかいすぎるとたまに思えるほどの人に対する思いやりに気づいた時間でした。

今後も、人の素敵な部分を、作品の一部に加えられたらなぁと思っております。


プロフィール白井 麻子(Dancer&choreographer)
1994-1998石黒節子ダンスシアター、1997-2003武元賀寿子DANCEVENUSの活動を経て、2003-2005 8月まで文化庁の海外新進留学制度で渡英。2003年LABANにて研修、プロフェッショナルダンスディプロマを取得、またロンドンで活躍中の振付家Darren Johnston“array”のプロジェクトを経験。
自作の作品や他の振付家の作品にダンサーとして参加する一方で、コラボレーターと2000年に結成したKAPPA-TEでは自主公演のプロデュースから作品振付、演出も手がけており、KAPPA-TE〜gとして、ロンドン版KAPPA-TEを結成し作品発表など、東京ロンドン間で活動中。
2000年お茶の水女子大学大学院修了

今後の公演日程

2005年1月14日ダンスが見たい!新人シリーズ4(神楽坂die pratze)http://www.geocities.jp/azabubu/ ,
2月16日にresolution!(ロンドン)にて作品を発表


写真:大洞博靖