「2005年全国舞踊コンクール上位入賞者による第22回アンコール公演

 「2005年全国舞踊コンクール上位入賞者による第22回アンコール公演」


 本年度の本公演では若き踊り手達の中に一段と21世紀という新しい世界が芽生えだしている事を感じた。特に各ジュニア部門や児童舞踊部に出演している踊り手たちは90年代生まれの踊り手たちである。邦舞第二部では本公演で最も若い踊り手である2000年生まれの新倉実南子が「手拍子」(二位)を踊った。まだあどけないが可愛らしく着飾った踊り手が手に傘を携え舞台に現れると客席が大きく沸く。傘を片手に仕草を活かしながら踊ったかと思えば、日ごろ習字の成果を披露する。と、傍から現れた蝶に魅せられ見とれる表情は愛らしい。佐々木愛沙「狐ちょうちん」(一位)は桃色の豪華な装束をまとった踊り手が織り成す大人びた世界のある作品だ。手の表情を中心に所作の一つ一つが豊かな情景を生み出した。共にこれからの研鑽を通じて秀でた踊り手として大成して欲しい。邦部第一部第一位の五條結己「神田祭」は仕掛けの多い難しい曲だ。五條がお多福やひょっとこのお面をつけてユーモラスに舞ったと思えば、長い杖を手に取り間合いを活かして踊る。踊り手の豊かな経験が自然な空気を作り出していた。
 現代舞踊部ではフレッシュな作品が多く見えた。第二部一位の伊藤麻菜実「Candy」は幻想的な踊り手によるバレエテクニックを駆使した明るい作品だ。この踊り手の醸し出す朗らかな表情はいつ見ても心地よい。ジュニア部一位の柴田芙実「ハスラー」では柴田がビリヤードを素材に世界を描いた。伊藤がボールを片手にこのゲームのスリリングな感覚を表現したかと思えば、踊り手はキュー(棒)を手に取りゲームがスタート。踊り手の将来が楽しみだ。
 現代舞踊一部は何れも秀でた作品だった。第二位の昆野まり子「ダナエ〜黄金の雨〜」は作家の優れた感性を表現した作品だ。昆野は作品「Into」の様な高度な動きの処理を活かしたコンテンポラリーダンスを提案する作家だが同時に練成された伝統的な表現も踊る事も出来る。青い衣装をまとった昆野が伝統的な表現で魅せる。突然踊り手が驚きの表情を見せ衣装を脱ぎ捨てるとそこには光り輝く踊り手の姿が現れる。昆野は光の中で嬉々と悦びを踊り描く。踊り手の確かな実力を感じさせる作品だ。第一位の米沢麻佑子「蒔絵」は胡弓の響きの中で米沢がしっとりと踊る。音の響きに感情を合わせながら踊り手がゆっくりと動いたかと思えば、曲の抑揚に合わせ間合いとって踊る。作品に陶酔しきらず、ぎりぎりの地点に合わせて踊るという巧みもさることながら、作品の背後にある石井漠の世界を審美的に様式化した現代舞踊が印象的だ。この世界こそが和井内恭子や黒沢輝夫といった石井舞踊団のメンバーによって踊られてきた世界であり大正、昭和を経て構築された美意識と作風である。その世界を80年代から現代にかけて脱構築してみせたのが黒沢美香でありコンテンポラリーダンスに於いて美香の影響力は計り知れない。洋舞創世紀からコンテンポラリーダンスにかけて垂線のように連なるこの伝統を近未来に向けてどのように活かし自身の踊りを創出するかに期待がかかる。共に豊かな資質に恵まれた米沢も昆野も欧米やアジアといった海外で活躍をする機会があればさらに大きく磨かれるだろう。
 児童舞踊は近代においては児童文学の「赤い鳥」運動ともつながる舞踊文化である。近年の入賞者では中村友紀や島田美穂といった優れた踊り手達を育んできた。かやの木芸術舞踊学園「歓喜の歌〜その時壁は崩れた〜」はベルリンの壁の崩壊を描いた作品だ。相互に戦うように踊る子供達が和解を2つに分断された国家の統合を描きだすと舞台いっぱいに平和を願う気持ちが描かれる。この踊り手たちが生まれた頃に起きた世界史的な事件の記憶がゆっくりと思い起こさせられる作品だ。
 創作部門では和田伊通子「Balance」が第一位に入った。舞台中央に置かれた傾いた板に横たわる中川賢が青年の揺れる自我を描く。苦悩し身悶える肉体を装置の上で走らせたかと思えば、男は舞台へと走り鍛えられた肉体から感情の起伏を描く。そんな舞台いっぱいには赤い球が美術として散乱している。踊り手の肉体とぶつかると無数の球は左右に転がっていく。洞察力を感じる作品だが細部をさらに鍛える事で大きく伸びる作品のように思う。
 バレエ各部門は踊り手たちが日ごろの成果を競い合う場所になったようだ。第二部第一位の中村悠「オディールのバリエーション」(「白鳥の湖」第3幕より)は初々しい踊り手による演技が印象的だった。伸びやかで可愛らしい表情を持った踊りの表情に会場の空気が華やいだ。ジュニア部二位の清瀧千晴「男性バリエーション」(「海賊」より)もまた定番ともいえる踊りだ。ダイナミックな動きで愛されるこの踊りを清瀧は雄々しく踊る。この踊り手はスリリングで切れ味が出てくるとさらに伸びるのではないか。バレエ第一部第三位は同作品からが中谷友香が「バリエーション」(「海賊」より)を踊った。豪華に着飾った踊り手がラインを活かして踊り始めると会場には優雅な空気が立ち込める。決め所を逃さない的確なその演技はベテランならではのものといえる。パ・ド・デゥ部二位のオディールとジークフリードのグラン・パ・ド・デゥ(「白鳥の湖」第3幕より)を踊ったのは小池亜貴子・碓氷悠太だ。華麗に朗らかに踊る小池を碓氷は的確に支える。小池にとってはスピード感、碓氷にとっては表情がこれから課題だ。二人の相互の感性が融和することでこの部門特有の華やかさが醸し出されていた。
本公演で入賞したような若々しい世代の作家達の登場は、新しい世代によるさらなるターニングポイントを予感させる。実際に彼らの作品や思考に於いて大きな変化が現れるであろう近未来が楽しみだ。

(8月27日 めぐろパーシモンホール